サバのトランク

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読書「いずれすべては海の中に」 サラ・ピンスカー 著

サラ・ピンスカー 著 「いずれすべては海の中に」竹書房文庫)

 

表題作を含め、13篇の作品を収録したSF短編集
短編集として、2020年にフィリップ・K・ディックを受賞し、2022年5月に邦訳が出版され、SFファンの間では話題になっていたようです。
また、収録作の「オープン・ロードの聖母様」は、2016年度ネビュラ賞中篇部門受賞作です。


私自身2022年5月は、退職直後で抗がん剤治療が始まったばかり。高い新刊本を買って読む心の余裕は全くありませんでした。
それから2年、2024年になってAmazonKindle unlimitedで利用できるようになったので、ようやく読んだというところです。

とはいえ、本書を読み始めてから、実は数カ月が経過しています。最初の2編を読んだ後、しばらく放置していました。
この著者の作品は初めて読んだのですが、最初の2編は私にはちょっと刺さらなかったというか、幻想的すぎるというか、「この作家はこういう作品ばかりなのか?」と思って読むのをここでやめようかなとも思っていました。


先日ふっと気を取り直し「あれだけ話題になったフィリップ・K・ディック賞受賞作なんだから一応読んでおくか・・・」と、続きを読み始めてみました。
すべて短編なので多少退屈かなと思われる作品でもなんとか読み終わり、次の小説に移ることができ、そしてだんだんと尻上がりに面白い作品が増えてきました。

SF的仕掛けは様々ですが、何らかの災害などが起こり、それを生き残ったけれど、かなり生き辛い状態になっている主人公たちが多いようです。ただトーンは暗くはなく、つらい状況ながらもしぶとく前向きです。

ハードSFとは対極にあるような作品で、SF的な状況に対しての論理的な説明はほとんどありませんし、ドンデン返しや小気味よい問題の解決もほぼありません。
いきなり多数の人名や、よく知らないアメリカの地名などが出てきて、最初の数ページがかなり読みにくい作品も多いです。

なんだか、けなしてばかりいるようですが、それでも作者独特の世界観や、いわゆるヒーロー・ヒロインではないけれど、つい好感を抱いてしまう主人公たちの物語にだんだんとはまってしまいます。
また、著者のサラ・ピンスカーはミュージシャンとしての顔も持っており、音楽が関係する作品も多いので、音楽好きな方も楽しめるかもしれません。


私自身は、論理的なハードSFが好きなので、あまり読まない範疇の小説でしたが、思いのほか好印象でした。😄
収録作の中で、気に入った作品としては、
「深淵をあとに歓喜して」
「孤独な船乗りはだれ一人」
「オープン・ロードの聖母様」
「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」
あたりですかね。

 

サラ・ピンスカーの邦訳は、本作を含めて2冊しかなく、もう1冊が「新しい時代への歌」です。
私は「新しい時代への歌」は未読ですが、本作に収録されている「オープン・ロードの聖母様」がこの「新しい時代への歌」の元になっている作品ということです。
こちらも、近いうちに読みたいですね。


物理・数学バリバリのハードSFファンや、血と暴力とSEX満載のハードボイルドやミステリーのファンも、たまにはこういう、それこそ「海の中」をたゆたうような短編小説を読んでみてはいかがでしょうか?

好き嫌いは分かれると思いますが・・・
お勧めします。😁

(2024年7月28日現在 Amazon Kindle unlimitedで読むことができます)