サバのトランク

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読書 「噓と正典」 小川哲 著

小川哲 著 「噓と正典」 (ハヤカワ文庫JA)

 

今年の7月にここで紹介した、BRUTUS(ブルータス) 2024年7月15日号「夏は、SF。」に、「歴史改変」ものなど、歴史に絡んだSFを発表している作家のひとりとして小川哲(おがわさとし)が紹介されていました。

savatrunk.com

 

昨年「地図と拳」直木賞を受賞されていたということですが、私は賞関係をほとんどリアルタイムで追っていない(大抵は文庫になってからしか買わない)ので、存じあげず。
BRUTUSの記事で初めて知った作家でした。

歴史改変のSFは好きなジャンルで、小川氏もBRUTUSの記事で挙げていたフィリップ・K・ディック「高い城の男」などは、かつてむさぼるように読んだものでした。

その記事の中で、この「噓と正典」が大きく取り上げられていました。
2019年発売で既に文庫となっていたので先日読んでみました。(この「噓と正典」も直木賞の候補作だったということです)


本書は6編からなる中短編集で、表題作である「噓と正典」のみが中編、他は短編です。

「魔術師」(初出:SFマガジン 2018年4月号)
「ひとすじの光」(初出:SFマガジン 2018年6月号)
「時の扉」(初出:SFマガジン 2018年12月号)
「ムジカ・ムンダーナ(初出:SFマガジン 2019年6月号)
「最後の不良」(初出:Pen 2017年11月1日号)
「噓と正典」(単行本への書き下ろし)

 

★★ 以下、多少内容に触れます ★★


「噓と正典」
米ソ冷戦時代のモスクワが舞台で、主人公はCIAの工作員共産主義そのものが誕生しなければソ連も誕生しない。そうすれば、この不幸な冷戦の時代も存在しないはず。
エンゲルスの運命を改変し、マルクスと出会わないようにすることができれば、それが可能になるかもしれない・・・。

若干、前半部分が冗長な印象もありましたが、発想も面白く、SFだけでなくスパイ小説的な緊張感もあり、特に後半はワクワクしながら読むことができました。


「噓と正典」以外の5編の短編のなかでは、「魔術師」「ひとすじの光」が良かったです。

「魔術師」
マジシャンであった父と姉を描く「タイムマシン」がテーマとなった作品。SFと言っていいのか、ミステリーと言っていいのか? 謎は残りますが一気に読ませる作品でした。

「ひとすじの光」
作家である主人公が、疎遠であった父親から一頭のサラブレッドを遺産として相続したことから話は始まります。
そのサラブレッドに関する謎を、父親が遺した未完の本の原稿や資料を読みながら、親から子へ、子から孫へと受け継がれていく「血」について、主人公が自分自身とも重ね合わせながら解き明かしていく物語となっています。
私は、ほとんど競馬には興味が無いのですが、この短編には感動しました。😢
収録作の中で、唯一SF的な要素の無い本作ですが、個人的には6作品中ベストかなと思えます。


小川哲氏はまだ若く、今勢いのある作家のようで、今後も注目です。
「ひとすじの光」「魔術師」のような、グッと凝縮された短編をもっと読んでみたいですね。

お勧めします!😃