石黒達昌 著 「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」【完全版】(アドレナライズ)
「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」(本来は無題作品)、及び、その続編ともいえる「新化」を収録したもの。
さらに、文庫化されるとき一部修正のうえ、上記2編を「新化 Part 1 / Part 2」としてまとめたものを収録し、さらに「電子版あとがき」も収録した【完全版】です。
つまり「平成3年5月2日・・・」についてだけ言えば、この1冊で本編・続編として完結するので、「日本SFの臨界点」と重複して買う必要はないということになります。(「日本SFの臨界点」には他に7編収録されていて石黒達昌入門としてはお勧めですが)
目次はこうなっています。
==========
平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,
この本を読まれた方へ
新化
おわりに
新化 Part 1 / Part 2
新化 Part 1
新化 Part 2
著者注
電子版あとがき
==========
「ハネネズミ」という架空の哺乳類の、おそらく最後の2匹をめぐるミステリー要素を含むSFで、種の絶滅と個体としての死についての研究者の深い洞察が、横書き、図表・写真あり、脚注・参考文献ありと、まるでレポートのような形式で、冷静に書き連ねられていきます。
事実関係が淡々と積み重ねられていく文章が中心なのに、何とも言えないもの悲しさが感じられてきます。
「新化」について、著者は「平成3年5月2日・・・」の「続編ではなく、独立したストーリーとして考えている」と「おわりに」の冒頭で述べています。しかし、読んだ限りでは7年後の後日譚であり、「ハネネズミ」に関する謎解きになっている、続編的な作品だと言って差し支えないと思います。
内容としては、「平成3年5月2日・・・」に登場した研究者の甥がDNA解析などの手法を駆使し、また遺伝学的実験を重ねながら「ハネネズミ」の謎に迫っていくというものとなっています。
「新化」は「平成3年5月2日・・・」よりも、より学術的にデータを積み重ねるような記述も多く、よりマニアックであるともいえます。
「平成3年5月2日・・・」を興味を持って読まれた方にはお勧めしますが、「ちょっとな・・・」と思われた方にはお勧めしにくい作品かもしれません。
ただ、著者の石黒氏は「人喰い病」という別の単行本の「作者自身によるごく短い解説」の中で、
=== 引用 ===
多少申し訳ないのですが、分からないところは(気になるかもしれませんが)読み飛ばしていただきたいのです。こう書くと元も子もないようですが、要は大筋で、専門用語などディテールにはどうせ大した事は書いていません。作者が断言するのだから絶対に間違いありません。
==========
とも書かれています。
分からなければ読み飛ばしても大丈夫ということですね(何しろ作者が断言していますから😁)。
あまり気にせず読んでみれば、新しい世界が開けるかもしれません。
「新化」を紙の本で読みたいと思った場合には、古本を探すしかなさそうです。
Amazonでは古本が見つかりました。(他は見ていません)
また、単行本と文庫本では収録作品が違うので注意してください。
・「新化」単行本(1997年、ベネッセ)
「新化」「カミラ蜂との七十三日」収録(横書き・左開き)
・「新化」文庫本(2000年、ハルキ文庫)
「新化 Part 1 / Part 2」収録(縦書き、一部図表など削除・改稿)
=== 引用 ===
この作品の斬新なフォルムと文体は、日本文学の転換点として記憶されるだろう。しかも、〈ハネネズミ絶滅〉の謎に迫る探索は、極上のミステリーとしても十分に楽しめる。(鈴木光司)
この素っ気ないレポート形式の文章が、なぜこんなにも心を打つのだろう。なぜこんなにも美しいのだろう。何度読んでも涙が溢れてくる。これは「科学と文学の融合」などではない。「生命」という圧倒的な現実そのものだ。(瀬名秀明)
==========
鈴木・瀬名ファンにも価値があるかも?
瀬名先生泣いてしまっています(24年前だけど)・・・ 😢
「平成3年5月2日・・・」を読まれて、より「ハネネズミ」と石黒達昌の沼にはまってみたいと思われた方はもちろん、それ以外のSFファン、文学好きの方々にも・・・
お勧めします! 😄
⬇️ 電子書籍版
リンク
⬇️ 単行本・文庫本(古本になるので他も探してみてください)
リンク