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読書 「星を継ぐもの」~ ジェイムス・P・ホーガン「巨人たちの星シリーズ」前半3冊

ジェイムス・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」前半の3冊、
第1部:「星を継ぐもの」(1977年)
第2部:「ガニメデの優しい巨人」(1978年)
第3部:「巨人たちの星」(1981年)
を30年ぶりくらいに再読しました。

巨人たちの星シリーズ

 

完全に続いている話なので3冊まとめて感想等を書きたいと思います。

 

★★★ 以下、大きくネタバレまではしませんが、一部内容には触れて書きますので、未読の方はご注意ください ★★★

 

 

未訳の「ミネルヴァ計画(仮題)」この夏発売予定?

7月30日に記事にしましたが⬇️、このシリーズの第5部に当たる、未訳の「ミネルヴァ計画(仮題)」がこの夏にも発売される予定だということで、それまでに復習しておくことにしました。
第1部~第3部は30数年前に読んでいたので、古い文庫本を引っ張り出してみたのですが、古い文庫本は字が小さい・・・😣

savatrunk.com

 

結局Kindle版の電子書籍を買い直して読みました。
(第4部「内なる宇宙」(上下巻)はこの後読みます)
(「ミネルヴァ計画(仮題)」について、東京創元社からの続報はありません)

 

「星を継ぐもの」

まずは第1部「星を継ぐもの」です。
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時代は近未来(2020年代後半の設定、本書が書かれたのが1977年なので、50年ほどの未来を描いている)、月面で深紅の宇宙服を着た現代人そっくりの死体が発見される。しかし彼は5万年以上前に死んでいることが確認された。
そして、本書の中ほどでは木星の衛星ガニメデで第2の大きな発見があり、より大きな謎が示される。
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本書は日本では「ハードSFの金字塔」とも呼ばれていますが、久しぶりに読み返してみると、「謎解き」の要素が非常に強いと感じました。

「なぜ、5万年前に死んだ人類そっくりの死体が月面で発見されたのか?彼は異星人なのか、我々と同じ地球のホモ・サピエンスなのか?」

この謎解きに迫るのが、原子物理学者のハント博士と、その相棒の生物学者ダンチェッカー教授です。ハント博士が主人公ということになるのでしょうが、論理に論理を重ねて謎を解いていくのはダンチェッカー教授の方です。

本書のすごいところはこの謎解きが単純なものではなく、重層的になっているところですね。
ひとつの謎が解けたと思っても、新たな事実が発見されたり、矛盾が指摘されたりします。
そして、また謎は解かれるけれども、再び別の事実が示される・・・と。

私も読んでいて、「これで解決にしてしまうのか? ちょっとまだ矛盾があるような気がするが・・・」と思った場面が2、3回ありました。

すると、ダンチェッカー教授が登場し、ほとんど大学の進化学の講義のように新たな謎をスッキリと(その時々の状況に応じてですが)解明していきます。
私自身も生物学や化学を勉強してきたので、この論理ガリガリで押しまくるダンチェッカー教授の長広舌は、読んでいて最高に楽しい部分です。
(人によって好みは別れるかもしれません)

また、論理的な謎解きの部分だけでなく、何事もスマートにこなすハント博士に対して、頑固でまったくおしゃれでもないダンチェッカー教授のキャラクターそのものにもとても好感が持てます。😄

以上、「星を継ぐもの」は生物学と物理学をツールとして使った、壮大なミステリーとも言えると思います。

 

ガニメデの優しい巨人

続いて第2部「ガニメデの優しい巨人」です。
「星を継ぐもの」の後半で新たにガニメデで発見されたのは、2,500万年前の巨大な宇宙船と白骨化した身長8フィート(約2.4m)の巨人ガニメアンでした。

この第2部「ガニメデの優しい巨人」も、冒頭1/4程度までハント博士とダンチェッカー教授のディスカッションによる論理的な謎解きが展開されます。

しかし、その後 2,500万年の相対論的時間を超えて、ガニメアンの宇宙船が木星探査機の目の前に出現します。

ここから先は、人類とガニメアンとのいわゆる「ファーストコンタクト」(人類と地球外生命との最初の接触)の物語となっていきます。

 

「巨人たちの星」

第3部「巨人たちの星」です。

3冊まとめて感想を書いているせいで、後になるほど中身に触れにくくなってしまいますね。
題名の通り「巨人たちの星」と地球との戦い(単純な戦いだけではなく、複雑な闘争が繰り広げられます)が描かれます。内容についてはこの程度にしておきます。

ミステリー色が濃く、また論理的考察が多くのページを占める第1部「星を継ぐもの」、異星人とのファーストコンタクトを描く第2部「ガニメデの優しい巨人」と、SFの王道を行くような2冊と比べて、この第3部「巨人たちの星」は、SF的な謎解きの部分はありつつも、特に後半は政治・外交・謀略等、あたかもスパイ小説を読んでいるかのような感覚になってきます。
その証拠に後半では、ハント博士とダンチェッカー教授ではなく、法律を専攻したアメリカ合衆国国連代表のカレン・ヘラーが鋭い考察と活躍をする場面が非常に多くなります。

★★★

1981年に、この第3部「巨人たちの星」が書かれて、シリーズは一応完結しました。
今回読んだのはここまでです。

ただ、その10年後の1991年に第4部「内なる宇宙」が刊行され、さらにその14年後に第5部「ミネルヴァ計画(仮題)」(原題:Mission to Minerva)が刊行されています。

 

3冊まとめて

小説の本筋からはやや離れますが、描写されるテクノロジーの部分で面白いなと思った点がありました。

まず「星を継ぐもの」の最初のあたり、ハント博士がエアカーなる空飛ぶ車に乗っている時のエピソードです。
====== (「星を継ぐもの」より引用)
発進後しばらく、ハントはメタダインのコンピュータと対話して、し残してきた仕事を整理した。 ~中略~ 一時間後、コロラド河の上空二万フィートに差し掛かったあたりで彼はMITを呼び出し、おりからこの大学が刊行しようとしている本の何点かにざっと目を通した。
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2024年の現在、個人で使えるエアカーはいまだ実用化されていませんが、それ以外の、ハント博士がエアカーの中で、職場(メタダイン社)のコンピュータを呼び出して仕事をしたり、MIT(マサチューセッツ工科大学)の資料に目を通したりする部分は、現在のネットワーク環境であれば全く普通に可能な事です。
ところが、この本が書かれた50年近く前には、このネットワークの部分もエアカーと同じく「未来のテクノロジー」であったわけです。

こういうネットワーク関係の記述が多く出てきても、何の違和感なく読んでいる自分に途中で気が付きました。
もう当時の感覚を覚えてはいませんが、30年以上前に初めてこの本を読んだ時には、その部分も「未来」だと感じていたはずです。

同じパターンですが、
====== (「ガニメデの優しい巨人」より引用)
トーレスと二人の科学者は壁面にずらりと並んだスクリーンに映し出されている幹部たちと向き合った
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これも、1980年なら「未来のテクノロジー」ですが、今では "Zoom" や "Meet" のWeb会議で、コロナ禍の頃から普通になっていますよね。

古いSFを読むとき、こんなところも気が付くと面白いところかなと。

(ちょっと脱線ついでですが、最近スマホを使って外国の人と会話しているCM等を見ていると、現代の「ほんやくコンニャク」だぁ! などと思ってしまいます😃)

★★★

こんなベストセラー小説について、3冊まとめて書こうとしてしまったので、中途半端でまとまらない内容になってしまいました。おまけに謎解き要素が多いのでうまく書けなくて申し訳ないです。😣

ですが、本そのものは最高におもしろく、ハードSFの理屈っぽさはありますが、明るく楽天的で、なんだか古き良きアメリカっぽい感じもします。

SFのファンで、もし未読の方には当然お勧めしますし、
「SF、ましてや、ハードSFなんてとんでもない!」と思っている方もぜひ読んでみてください。それほど取っつきにくくはないと思います。
特にミステリーの好きな方は、かなり「はまる」んじゃないかと思いますよ!

かなり強く、お勧めします! 😄