柴田よしき著 「あおぞら町 春子さんの冒険と推理」(コスミック文庫)
↑ Kindle版(2023/11/20 現在、Kindle Unlimitedで読むことができます)
主人公の春子さんは、プロ野球選手の夫との新婚生活を埼玉県の架空の町「青空市」で始めたばかり。
夫の拓郎君はプロ野球選手といってもほぼ2軍選手で、華やかな生活とは無縁なふたり。
春子さんは元看護師で、毎日一度は仕事を辞めなければ良かったかも、とちょっと後悔しつつも夫が現役でいる間は全力で支えるつもりで頑張っている。
そんな日常に少しだけ「ちょっと変な事」が時々入り込んできて、春子さんがその変な事を解決?していくという ”連作ミステリー”です。
柴田よしき氏といえば、鮮烈なデビューを飾った 1995年の横溝正史賞受賞作
「RIKO - 女神の永遠」(RIKO - ヴィーナスの永遠)、続編の「聖母の深き淵」(マドンナの深き淵)、「月神の浅き夢」(ダイアナの浅き夢)を思い出す方も多いかもしれません。
また、「ゆび」、「0(ゼロ)」、「R-0 Amour リアルゼロ・アムール」、「R-0 Bete noire リアルゼロ・ベトノワール」のホラーシリーズもとても強いインパクトがありました。
20年以上も前になる、これらの柴田氏初期の作品を読まれていて、その後は読んでいなかったという方がこの本を読むと、かなり違った印象を持たれると思います。
この「あおぞら町 春子さんの冒険と推理」は、”ミステリー” の体裁はとっていますが、あくまでも主人公の春子さんが日々の生活の中で色々なことを経験し、考えながら成長していくことが主題の物語なんだろうな、と思います。
「イヤミス」とは正反対の、とても温かい印象が残る作品です。
”連作”は、ひとつひとつのエピソードはそれほど長くなく、長編作品のように構えずに読み始めることができて、読みやすい形式だと思います。
また、その「連作」を通じて底流に流れるもっと大きな謎が解明されたり、ストーリーが展開されていったりするのも、作者の腕の見せどころであり醍醐味でもあって、私はとても好きな小説のかたちです。
この物語は、2016年に単行本が出版され、2022年に文庫化されています。
柴田氏は「あとがき」に「できれば書き続けて春子さんの成長や、拓郎くんの活躍をまたお届けしたいと思っています。」と書かれています。
少し年数が経ってしまいましたが、まだ続編は出ていません。ぜひ次のエピソードを読みたいと思わせてくれる1冊でした。
野球に興味が無い方でも抵抗なく読むことができると思います。
おすすめします。
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