テッド・チャン 著 「あなたの人生の物語」(ハヤカワ文庫SF)
表題作を含め、8篇のSF作品を収録した中短編集。作品自体は 2003年に発売されたもので、新しいものではありません。
表題作の「あなたの人生の物語」は、最後に謎解きのあるようなSFではないので、この表題作についてのみ「ネタバレ有り」でこのあと書きます。ご注意ください。
★★★
地球の軌道上に突如現れた異星の宇宙船。そしてその異星のエイリアンにより、地球上に多数の「ルッキンググラス」(姿見)と名づけられた双方向通信装置が設置された状況からストーリーは始まります。
主人公は女性の言語学者。物理学者らとチームを組んで、このエイリアンとのコンタクトをとりはじめます。
主人公がエイリアンの言語について理解が深めていくにつれ、それは地球の言語と単に言葉が異なっているというレベルではなく、「因果関係」「前提と結論」「思考の筋道」というようなものが全く違うことがわかってきます。
「原因が発生する前に結果に関する知識が必要」となってきて、これまでの常識が主人公のなかで覆されはじめます。
やがて主人公の中には、現在から自分の死の時までの「未来の記憶」が形成されていきます。
その「未来の記憶」の中には、やがて結婚する夫や、生まれてくる娘に関する記憶も当然含まれます。
そして、その娘は若くして事故で亡くなることも、その「未来の記憶」によってわかってしまいます。
娘が若くして亡くなるエピソードは、物語の最初の方で示されるので、それは謎として扱われるのではなく、主人公がそれをわかったうえで、どう考え、行動するのかということがテーマとなってきます。
「それでも、自分は子供を産むことを選択するのか?」
「未来を知ったうえで、自分はその通りの行動をとるのか?」
基本として、異星人とのファーストコンタクトものではあるのですが、それは主題ではなく、上に書いたように「未来の記憶」を持った時、人はどう考え、行動するのかということが大きなテーマでしょう。
また、言語学に関するSF的な挑戦をしている作品だともいえそうです。
(著者のテッド・チャン氏は、言語学に興味があるということです)
SF小説で、なおかつ翻訳ものということで、SF好きでない方には決して読み易い作品ではないと思いますが、「未来の記憶」というテーマはなかなか奥深いものだと思います。また「言語学」に興味のある方にも面白いかも。
SFファンの方には、もし読んでいなかったとしたらテッド・チャンの作品(中短編集2冊しかありませんが・・・、もう一冊は「息吹」)は、
お勧めです。😄
★★★
私は、この作品を 2017年にKindle版で購入しました。
順番としては、2017年にこの記事の「あなたの人生の物語」を原作として、映画化された「メッセージ」(ドゥニ・ビルヌーブ監督、エイミー・アダムス主演、原題 "Arrival")のCMの映像を見て、Blu-rayと電子書籍の両方を、めったにしたことの無い「ジャケ買い」しました。
(「2001年宇宙の旅」の「モノリス」もそうですが、謎の物体が立ち上がっている姿というのはSF心をくすぐられますね 😃)
それから、本書を読み、映画を見たという順番でした。
著者のテッド・チャン氏が、ネビュラ賞・ヒューゴー賞などを多数受賞している作家だということは後から知った次第です。
「あなたの人生の物語」も1999年ネピュラ賞中編小説部門受賞作です。
映画「メッセージ」の記事を書きました ⬇️
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